還暦に近いMさんという男性が、私の事務所を訪ねてきました。見てもらいたいものがあると言って取り出しだのは、示談書でした。二五歳になる息子さんが、交差点をバイクで直進中、対向から右折してきた乗用車にぶつけられ、大けがをしました。診断書には、脳挫傷、肝破裂、腎挫傷、肺挫傷、無気肺、右上腕骨骨折、左大腿骨骨折、左肩挫傷といった傷病名が列挙されています。この方の後遺障害等級は二一級と認定されました。最近、総額五〇〇万円で示談が成立し、T損保から示談金も払われたといいます。では、いまさら何のために私の事務所へ来たのか。「示談金をもらってから、ふと不安にかられましてね。私がずっとT損保と交渉してきたんですが、親として息子のために十分なことをしてやったのか、この金額で本当によかったのかと、そんな思いがよぎったものですから、念のため、先生に示談書を見ていただきたいと考えまして」彼の説明によれば、未払いとなっている損害額は、人通院慰謝料、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料の三項目です。息子さんには一五%の過失があったと考えられ、総額から一五%をさしひくということでは、早い時点から双方が合意していました。バイクが直進、相手は対向からの右折車ですから、過失割合の認定基準にてらしても、バイク15%、乗用車八五%は妥当な線です。T損保側の当初の提示額は二六七万円だったそうです。それが交渉の結果、四一五万円に増額され、彼が五〇〇万円にしてくれませんか、と言ったところ、T損保が彼の要求を呑んでくれたといいます。当初の二六七万円からみれば、約二倍近くに増額されたわけですので、彼としては、よかったと胸をなでおろしたといいます。しかし、私が見たところ、かなり問題がありました。
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